出版日:2025年11月18日
紹介文
日本では近年、食料品、光熱費、日用品など生活に直結するあらゆる価格が上昇し、「物価が高い」という実感が急速に広がっている。しかし多くの場合、その原因は「世界的なインフレ」や「戦争」「エネルギー危機」といった外部要因として語られ、日本独自の問題として深く分析されることは少ない。本書は、この常識に疑問を投げかけるところから始まる。日本の物価高は本当に避けられない現象なのだろうか。もしそうでないなら、なぜ対策は取られないのか。本書は、この問いに真正面から向き合う。
本書が示す結論は明確である。日本の物価高の最大要因は「円安」であり、円安を是正する最も直接的な手段は金利政策である。しかし日本は長年にわたり、世界主要国が金利を引き上げる中でも超低金利政策を続けてきた。その結果、円は大きく下落し、輸入価格が上昇し、生活費が押し上げられ続けている。問題は、解決策が存在しないことではない。むしろ、比較的単純な政策調整によって状況を改善できる可能性があるにもかかわらず、その選択がなされない点にある。
では、なぜ日本は円高に向けた政策を取れないのか。本書は、財務省、政権、日銀という三つの主体が抱える構造的な事情に焦点を当てる。金利の上昇は国債の評価や財政負担、政治的責任、金融市場の安定など、さまざまな問題を引き起こす可能性があると考えられている。しかし、その多くは「実際の損失」ではなく「損失に見えるもの」であり、批判や誤解を恐れる心理が政策判断を縛っている側面がある。本書は、こうした“見た目の損失”と実質的な影響の違いを丁寧に整理し、日本の政策が動きにくい理由を解き明かす。
さらに本書は、円高が必ずしも輸出に不利ではないという視点にも踏み込む。かつての日本は国内生産中心の輸出国家であり、円安は大きな追い風であった。しかし現在の企業は原材料や部品を輸入に依存し、海外生産も拡大している。円安は輸出企業にとってもコスト上昇という形で影響を及ぼすようになっている。こうした構造変化を踏まえることで、「円安が日本に有利」という固定観念を再検討する必要がある。
本書は経済理論の専門書ではない。むしろ、日常生活の中で感じる疑問を出発点とし、政策と社会の関係をわかりやすく読み解くことを目的としている。物価高の背景を理解することは、将来の選択肢を考えるための第一歩である。日本が抱える課題は決して解決不可能ではない。本書が示す視点が、現状を見つめ直し、より良い未来を考えるきっかけとなることを願っている。
目次
序章 なぜ日本だけが物価高に苦しみ続けるのか
第Ⅰ部 物価高の「正体」を正しく理解する
第1章 物価高の最大の原因は“円安”である
1.1 輸入に依存する日本経済の弱点
1.2 なぜ円安は生活費のほぼすべてに影響するのか
1.3 世界と日本の金利がつくる「避けられない力学」
1.4 円安を放置する国と、対策できる国の違い
1.5 円高は必ずしも「輸出に不利」ではない—誤解の構造
第2章 企業は本当に儲かっているのか—内部留保の誤解
2.1 「内部留保=現金の山」という大誤解
2.2 企業が自由に使えるお金は増えていない
2.3 なぜ日本企業は投資も賃上げもできないのか
2.4 国民が“企業だけ儲かっている”と誤解する理由
第3章 国民の生活が苦しむ構造—実質賃金の停滞
3.1 賃金はなぜ20年以上上がらないのか
3.2 「努力不足」ではなく「構造」が原因
3.3 デフレ経験の呪縛
3.4 物価高が国民だけに集中してしまう理由
第Ⅱ部 金利を上げられない日本の“構造的な壁”
第4章 金利を上げると誰が困るのか
4.1 金利が0.1%動くだけで何が起きるのか
4.2 財務省の恐れ—国の利払いの爆発
4.3 政権の恐れ—責任と支持率の急落
4.4 日銀の恐れ—国債価格の崩れと市場混乱
4.5 国民が得をしても、3者が動かない理由
第5章 なぜ「物価高」では政治も官僚も動かないのか
5.1 国民の怒りは“分散”し責任が曖昧になる
5.2 金利政策は“責任が一点に集中”する
5.3 政治に届かない国民の声
5.4 「国民の苦しみ」が政策に反映されない仕組み
第Ⅲ部 政治が正しい選択を避ける理由
第6章 政治家の利益と国民の利益は一致していない
6.1 政治家が本当に恐れる相手
6.2 多数派ではなく“特定の票と団体”を優先する理由
6.3 高齢者票という圧倒的な力
6.4 「正しい政策」ほど政治的には危険になる
第7章 改革を拒む官僚機構—財務省と日銀の文化
7.1 変化より「現状維持」が優先される組織
7.2 失敗の責任を負いたくないという本能
7.3 金利政策は最も避けたい領域
7.4 なぜ財務省・日銀は国民の不満を“自分の損”と感じないのか
第8章 なぜ国民の声は政治に届かないのか
8.1 投票率構造が政治を歪める
8.2 多数派の不満より“少数の強い反対”が優先される
8.3 日本政治の意思決定が遅い理由
8.4 国民の苦しみが「政治の損得に換算されない」現実
第Ⅳ部 どうすれば日本は正しい選択をできるのか
第9章 日本ができる“現実的な改善策”
9.1 本当に可能な金利政策の微調整
9.2 円安依存から抜け出すための条件
9.3 賃金を上げるために必要な「構造の再設計」
9.4 国民生活を守る現実的な政策とは
第10章 政治が動かない時代に、国民ができること
10.1 正しい情報の見抜き方
10.2 損得の構造を読み解く
10.3 声を上げないと政治は変わらない
10.4 社会を“正しい方向”に動かすための方法
終章 国民が理由を知れば、社会は変わる